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雲ノ平の登山道整備を通じて、山と人の新しい関係性を提案する

雲ノ平トレイルクラブは、雲ノ平の登山道の整備・維持管理の活動を通じて、危機的な状況にある国立公園の管理体制に新たな可能性をもたらすとともに、環境危機の時代における社会と自然環境の、新しく創造的な関係を築くことを目的とした組織です。

OVERVIEW

雲ノ平を取り巻く複合的な課題

雲ノ平は、北アルプスの最奥部、標高2,600mの黒部源流域に位置しており、そのアクセスの困難さからかつては「最後の秘境」とも言われました。周囲を急峻な山々をに囲まれながらも、雲ノ平に踏み入ると、まるで庭師が丹念に手入れした庭園かのような繊細で穏やかな風景がひろがり、訪れる人々を魅了してきました。
しかし、近年その雲ノ平でも登山道周辺の土壌侵食や、公共事業で敷設された木道が30年以上交換されず腐敗が進むなど、登山道をめぐる問題が至る所で顕在化しています。

登山道維持管理に関する問題は、日本で自然環境(環境保全)をめぐる世論が弱かったため、大規模な登山人口を擁しながらも、国立公園の自然環境を保全するための公的なシステムが成熟しなかったことが背景にあります。
国立公園に人材や予算、実践的な制度が備わらず、山小屋などの現場の小規模組織が登山道の維持管理などの役割を担う形がとられてきました。
しかし、そのあり方は登山道の荒廃の加速化や山小屋の経営基盤の不安定化、山岳会の高齢化、コロナ禍などの社会の変化の中で近年限界をきたしています。また、自然環境のエキスパートの不足により、公園整備のための公共事業などが、かえって環境を壊してしまうことも稀ではありません。
山小屋などの自助が行き詰まり、公助も機能しないとなれば、今取れる方向性は共助ということになります。

助け合い、築くかたち

雲ノ平トレイルクラブは、こうした状況を克服するべく、2021年に雲ノ平山荘とアウトドアショップ・ハイカーズデポの呼びかけにより始まった「雲ノ平登山道整備ボランティア・プログラム」に集ったメンバーを中心にして、2022年に結成されました。
アウトドアコミュニティーや学術機関、企業、環境コンサルなど、これまで関係の弱かった様々な人々の横のつながりを強化し、また15年に及ぶ雲ノ平山荘の「植生復元活動」の経験を活用しつつ、持続可能な環境保全のシステムを立ち上げることを志します。
今必要なのは「山小屋を助けよう」という情緒論ではなく、山小屋もステークホルダーの一角に位置付け直した上で、システム(役割分担)を最適化していくあり方なのです。
景観や生態系に調和した整備技術の確立、現状把握に資するデータベースの作成、情報発信機能の強化、財源の多元化、持続可能な体制づくり(制度)の提案、人材育成などを包括的に手掛け、行政とも連携を深めていくことで、今後の環境保全システムのロールモデルを築きたいと思います。

植生復元事例・施工前
植生復元事例・7年後
決壊した祖母岳の池塘
祖母岳池塘修復作業・施工後
スリップしやすかった祖父岳登山道・施工前
祖父岳登山道・施工後

長い道のりを歩むために

いかなるシステムにせよ、社会運動にせよ、現実を動かしていくのは人と人が関わり合う力です。
正義感だけ、理論だけ、勢いや合理性だけではチームにならないしムーブメントになりません。
多様な能力や視点が出会い、互いに研鑽し信頼を深める中でこそ大きな力が生まれます。
トレイルクラブでは継続的に活動を共にする仲間の輪を築くことで、日常の中で喜びを持って自然環境に関わる場を創造したいと思います。

また、自然保護に資する経済が弱い中で持続的に活動するためには、世論を喚起しつつ新たな財源を生み出す必要があります。助成金や寄付金、会費などを募るにせよ、一般社団法人として透明性、自立性の高い経営体制を確立する中で、地道に可能性を伸ばしていきたいと考えています。

自然環境の大きな時間スケールに寄り添った営みである上に、文字通りゼロから社会の仕組みや価値観を醸成する活動である以上、気の長い取り組みになることかと思いますが、温かい目で見守っていただければ幸いです。
環境危機や資源問題などに揺れ、人類の繁栄と孤立が表裏一体になったような現代において、社会と自然環境の創造的な関係性を生み出すよすがとなれるよう、努力していきたいと思います。

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